イギリスでもスイスでもファミリーのイメージはプライベートバンクにとって大変価値ある財産なのである。
こういう世界には商業銀行は簡単には入っていけない。 それでも、大手の商業銀行は付加価値の高いサービスでこの富裕な人達を追い求めるのに懸命である。
イギリスの大手商業銀行のプライベートバンキングの展開はまだ始まったばかりだ。 ロンドンの中心街、ピカデリー広場から東へちょっと下り、チャリング・クロスからシティに向かつて伸びるストランドという古い大通りがある。
昔、ロンドンの中心であったシティから貴族や貿易商が馬車で王宮へ往来した繁華街であった。 一帯は貴族の住居(マンション)が立ち並ぶ高級住宅街でもあった。
通りのシティよりには王立裁判所、テンプル(高等法務院)があるので法律事務所が目につく。 銀行、商館など由緒ある古びた石造りの建物が続く。
先には、ローストビーフのシンプソンや名門サボイホテル、英国で最初の紅茶の卸商トワイニングスの本舗がある。 チャリング・クロスの地下鉄の駅を少し西に歩くと左側にクーツ銀行の建物が見える。
入り口には金ボタンのフロックコートで身を固めた品のある案内係が立って客を迎えている。 クーツは、イギリスのプライベートバンキングの代表的存在である。
イギリス四大商業銀行のひとつ、ナショナル・ウエストミンスター銀行、通商ナットウエスト(NatWest)のプライベートバンキング子会社である。 1兆円強の運用資産を持ち、英国王室の資産を管理していることでも有名でーある。

クーツは「貴族のリテールバンク」などと呼ばれるが、実際、顧客には貴族やジエントリー(郷紳)など地方の大地主が多い。 なにしろ、ジョージ三世の頃からの取引と言われる。
これがクーツのブランド名の確立に大いに役立つている。 圏内に21の拠点を持ち、海外での展開も熱心で“グローパル・プライベートバンキング”を目指している。
クーツは1992年に創業300年を迎えた最も古い銀行の1つだが、1919年に当時の五大銀行の1つ、ナショナル・プロビンシャル銀行に買収された。 同行は1969年にウエストミンスター銀行と合併して、いまのナショナル・ウエストミンスター銀行になった。
歴史の重みを背負っている。 そのクーツが自ら経営改革に取組んでいる。
96年からその機構を徹底的に整備して、目下富裕層サービスに専念する戦略部門に変身中である。 プライベートバンキングの収益性が比較的高いという理由で新しい競争相手が市場に続々と参入して来たので、伝統的なプライベートバンクも経営を再検討せざるを得なくなってしまったのだ。
クーツのこのリストラは親銀行のナットウエストの営業網の再編成を中心とした経営改革と並行して行われたものである。 ナットウエスト自身は350の支店の閉鎖と、圏内部門で数千人の人員削減のリストラを実行中である。
ナットウエストのリストラの狙いは採算の悪いリテール商業部門の大幅な削減と、投資銀行部門の拡充、資産運用部門の強化、そしてプライベートバンキングの再編強化である。 クーツには3400人の従業員が働いている。

スイスの大手プライベ一トバンクのピクテやロンパート・オディエの約1000人の規模と比べると、はるかに大きな銀行である。 今回の再編成によって、クーツでは170人の従業員が退職させられた。
これは同社の圏内戦力の約10%、全従業員の5%に相当する。 クーツではこのリストラに合わせて、あまり儲からない普通の顧客との取引を止めたいのだが、ほとんどの顧客はお互いに知り合いなのでそれが出来ない。
これは紹介をベースに築き上げたプライペートバンクの顧客層の特徴であり、見過ごせない事実である。 しかし、クーツはこの層の顧客にいつまでもこだわれない。
これからのクーツの狙いは投資にアクティプな富裕層である。 イギリスのプライベートバンクはもともと貴族など富裕層を対象とした預金の受入れなどいわゆる通常の銀行業務から始まっているので、どのプライベートバンクもこの分野のサービスに力を入れてきた。
クーツもこれまで高級な“ブティック・バンク”として、当座勘定やクレジットサービスを提供してきたが、近年この部門は他の低コストの金融機関との競争にさらされてきた。 クーツは“赤じゅうたんのリテールバンキング”と呼ばれていても内容はさして変わらない。
これに耐えられなくなったのだ。 いま、リストラ中のスイスのプライベートバンクのように、ちょっと遅すぎた感もあるが、クーツも利益の大半がほんの一握りの顧客層から稼ぎ出されていることに気がついた。
少数の富裕な顧客層は、単に“格の高い”銀行口座を持ちたいという“その他大勢”と違って、一連の財務相談や高度な投資サービスを求めてクーツと取引しているのだ。 クーツはこの事実に対応して新たに体制を強化しようとしている。
しかしながら、大手商業銀行が伝統的なプライベートバンクに攻勢をかけているので、富裕層の資産の運用管理業務の分野での競争は激しさを増すばかりだ。 クーツはアメリカやスイスにも拠点をもっているが、いまは海外より英国国内ではるかに多くの利益をあげている。
クーツの96年度の税引前利益は7200万ポンド(約150億円)になったが、税引後利益は11%ダウンし、5400万ポンド(約110億円)であった。 それにもかかわらず、クーツは海外に力を入れていて、95年にはブエノスアイレスとサンディエゴ、中欧のオーストリアに進出した。

シンガポールには支店を開設した。 南米の拠点は南米とアメリカの顧客を支援するために、ウィーンのオフィスは東欧の市場開拓とスイスのオペレーションの支援のために、と説明している。
クーツはこのリストラによって、スイスのプライベートバンキングをモデルにして、顧客層を海外にも拡げようとしている。 特にアメリカ国内の金持ちを狙って、アメリカのオペレーションを強化する考えだ。
これまでクーツはニューヨーク、マイアミ、カリフォルニア(ピパリーヒルとサンディエゴ)で営業しているが、これは主にラテンアメリカやアジアの大金持ちの海外資産をケアーするものだ。 ニューヨーク、カリフォルニア、フロリダはアメリカでは最も富裕層の多い地域である。
今後、アメリカの圏内の富裕層にもプライベートバンキングのサービスを拡げたいと考えている。 クーツは、北アメリカは世界の富が最も集中しているところと認識しており、すでに過去3年間に体制整備にかなりの投資をしてきた。
市場開拓のために地元の名門プライベートバンクであるu。 s。
トラストとも提携している。 ニューヨークのオフィスはスイスの子会社の支店だが100人のスタッフが働いている。
中南米の金持ちが集まるマイアミにあるオフィスは、南米の金持ちにあらゆる金融サービスを提供できるライセンスを持っている。 最近のメリルリンチの推計では、アメリカでは50万ドル以上の投資可能な資産をもっ個人が4兆5000億ドルの投資をコントロールしている。
他の地域では、富裕層の多くはスイスなど国外のマネーセンターに投資をしているが、アメリカでは富裕層の資産は基本的に圏内(オンショア)で運用されている。
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